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自省録

2013/6/11 ジャン・ポール・サルトル 嘔吐4 展開

【走った距離】  6.45km
【今月の累積距離】  125.70km
【ペース】 平均 5'59"/km、 最高 5'38"/km
【天気】 曇り 
【気温】 最高 31℃、最低 23℃
【体重】  65.0kg
【コース】
淀駅~会社
【コメント】
一人の時だけでなく、カフェでも実存を感じる。吐き気を感じる。
物だけでなく自分の身体にも実存を感じる。
無力な抵抗を試みる。

 気持が悪い。
すっかりいやになった。
私はあれを感じている。
不潔さを、〈吐き気〉を感じている。
そしてこんどのは新しい経験なのである。
カフェで起ったのだ。
カフェは人が大勢いてたいそう明るいので、これまでは私の唯一の避難所だった。
これからはもうそんなものさえないだろう。
私が自分の部屋に追いつめられたなら、もうどこへ行ってよいかわからないだろう。

 そのとき〈吐き気〉が私をとらえた。
私は腰掛けに崩折れるように腰を下ろした。
自分がもうどこにいるのかさえわからなかった。
周囲をいろんな色彩がゆるやかに渦を巻いて流れるのを眺めていた。
吐きたくてたまらなかった。
そうして、それ以来〈吐き気〉は私から離れず、私をしっかり掴まえている。

 待機していた〈例の物〉が急を聞いて駆けつけて、私に襲いかかり、
私の中にそっと入り込み、私はそれでいっぱいになる。
―そんなことはなんでもない。
〈例の物〉とは、私なんだ。
自由になり縛をとかれた実存が私に向って逆流する。
私は実存する。

 私は実存する。
それは柔かい。
非常に柔かく、非常に緩慢である。
そして、軽い。
そうだ。
それはひとりでに空中に浮いているようだ。
それは動く。
それは、あらゆるところに軽く触れると、つぎには溶けて消えてしまう。
まったく柔かい、まったく柔かい。
私の口の中に泡立つ水がある。
それを呑み込む。
それは知らぬまに喉に移行し、私を愛樵する―そして、また水が口の中に生れる。
口の中には、私の舌に軽く触れる白っぽい―慎み深い―小さな水溜りが永久に存在する。
この水溜り、それもまた私だ。
そして舌。
そして喉、それも私だ。

 私は机の上の、指を拡げた自分の手を見る。
それは生きている―それは私だ。
手が開き、指が拡がり、つきでる。
手は仰向けになって、脂ぎった腹を見せている。
仰向けに倒れたけだもののようだ。
指、それはけだものの脚である。
仰向けに落ちた蟹の脚のように、戯れに私は指を非常に速く動かしてみる。
蟹は死んだ。
脚がちぢんでそりかえり、手の腹のほうに戻ってくる。
私は爪を見る―それだけが自分のものの中で生きていない。
いや、それも怪しい。
手は寝返りを打ち、うつぶせになる。
それはいま、背中をみせている。
少しばかり光沢のある、銀めっきをした背中
―指の関節の始まりに赤毛がなかったなら、まるで魚だ。
私は自分の手を意識する。
両腕の尖端で勁いている二匹のけだもの、それは私だ。
私の手は、一本の脚を他の脚の爪で引掻く。
私は、私ではないテーブルの上に置かれた手の重さを感じている。
この重さの感じは長く、じつに長く続き、なかなか消え去らない。
それが消え去る理由はない。
しまいには耐え難くなる……。
私は手を引っ込め、ポケットに入れる。
しかし布地を通して腿の熱さをたちまち感じてしまう。
すぐにポケットから手を引き抜いて、椅子の背にだらりと垂らす。
いま私は、腕の尖端に手の重さを感じている。
手は少し、どうにか、尨かく弱々しく引っ張る。
それに実存する。
くどくは言うまい。
手をどこに置こうとも、それは実存し続けるだろうし、
それが実存することを私は感じ続けるだろう。
それを取除くことはできない。
私の肉体の残りの部分を、私のワイシャツを汚している湿った熱さを、
スプーンでかき混ぜているようにゆっくりと廻っているあの暖かい脂肪を、
内部を動き廻り、あっちへ行ったりこっちへきたり、脇腹から腿の下へ上ったり、
あるいはまた、朝から晩まで同じおきまりの隅っこで、
おとなしくじっとしているすべての感覚を取除くこともできない。

 私の考え、それは〈私〉である。
だから私にはやめることができない。
私か実存するのは、私か考えるからだ……そして、私は考えずにはいられない。
いまのこの瞬間でさえ―まったくいやになるのだが―もし私か実存するとすれば、
それは、実存することにひどく嫌気が差している〈から〉だ。
私が熱望しているあの無から、私自身をひきだすのは私である、この〈私〉である。
実存することへの憎悪にしろ嫌悪にしろ、いずれも〈私を実存させ〉、
実存の中に私を追いやる方法である。
思考はめまいのように、私のうしろで生れる、
思考が頭のうしろで生れるのが感じられる……もしも負ければ、それは前方に、
私の眼の間にやってくるだろう―だが、私はいつも負けてしまう。
思考はみるみる肥りだす。
そして、いまや大きな形になった思考がすっかり私の内部を満たし、私の実存を更新する。

2013/6/11 ジャン・ポール・サルトル 嘔吐4 展開_b0217643_2312675.jpg






by totsutaki2 | 2013-06-11 23:10 | 読書

市民ランナーの市井の日常。 日々の出来事、感動を忘れないために
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