自省録

2013/1/17 大菩薩峠3 音無しの構え

【走った距離】  6.09km
【今月の累積距離】  252.79km
【ペース】 平均 5'26"/km、 最高 4'58"/km
【天気】 曇り 
【気温】 最高 8℃、最低 4℃
【体重】  64.8kg
【コース】
淀駅~会社
【コメント】
「音無しの構え」は竜之介の剣法。
相手が討ってくるまで動かずに、
相手がしびれをきらして斬りかかってきたところを討つ。
相手の刀と一度も刃を合わさないので音無しという。

甲源一刀流の師範宇津木文之丞は御岳神社の奉納試合で竜之助と立ち会う。
実力では竜之介に劣るが、妻のお浜を竜之助に襲われたので引くに引けない。
異様な雰囲気を察した立会人が勝負無しを宣した瞬間、
文之丞は竜之介に必殺の衝きを入れるが、かわされ、逆に脳天を割られる。
 
 宇津木文之丞と机竜之助は左右にわかれて両膝を八文字に、
太刀下三尺ずつの間合をとって、木刀を前に、礼を交わして、お互いの眼と眼が合う。
 山上の空気がにわかに重くなって大地を圧すかと思われる。
たがいの合図で同時に二人が立ち上る。
竜之助は例の一流、青眼音無しの構えです。
その面は白く沈み切っているから、心の中の動静は更にわからず、
呼吸の具合は平常の通りで、木刀の先が浮いて見えます。
 竜之助にこの構えをとられると、文之丞はいやでも相青眼。
これは肉づきのよい面にポッと紅を潮して、澄み渡った眼に、
竜之助の白く光る眼を真向に見合せて、これも甲源一刀流名うての人、
相立って両人の間にさほどの相違が認められません。
 しかし、この勝負は実に厄介なる勝負です。
かの「音無しの構え」、こうして相青眼をとっているうちに出れば、必ず打たれます。
向うは決して出て来ない。
向うを引き出すにはこっちで業をしなければならんのだから、
音無しの構えに久しく立つ者は大抵は焦れてきます。
 こんな立合に、審判をつとめる一心斎老人もまた、なかなかの骨折りであります。
 一心斎老人は隙間なく二人の位を見ているが、どちらからも仕かけない、
これから先どのくらい長く睨み合いが続くか知れたものでない、
これは両方を散らさぬ先に引き分けるが上分別とは思い浮んだけれども、
あまりによく気合が満ちているので、行司の自分も釣り込まれそうで、
なんと合図の挟みようもないくらいです。
 そのうちに少しずつ文之丞の呼吸が荒くなります。
竜之助の色が蒼白さを増します。
両の小鬢のあたりは汗がボトボトと落ちます。
今こそ分けの合図をと思う矢先に、
今まで静かであった文之丞の木刀の先が鶺鴒の尾のように動き出してきました。
業をするつもりであろうと、一心斎は咽喉まで出た分けの合図を控えて、
竜之助の眼の色を見ると、このとき怖るべき険しさに変っておりました。
文之丞はと見ると、これも人を殺し兼ねまじき険しさに変っているので、
一心斎は急いで列席の逸見利恭の方を見返ります。
 逸見利恭は鉄扇を砕くるばかりに握って、これも眼中に穏かならぬ色を湛えて、
この勝負を見張っていたが、「分けよう」という一心斎が眼の中の相談を、
なぜか軽く左右に首を振って肯いません。
一心斎は気が気でない、彼が老巧な眼識を以て見れば、
これは尋常の立合を通り越して、もはや果し合いの域に達しております。
社殿の前の大杉が二つに裂けて両人の間に落つるか、
行司役が身を以て分け入るかしなければ、
この濛々と立ち騰った殺気というものを消せるわけのものではない。
今や毫厘の猶予も為し難いと見たから、
「分け!」
 これは一心斎の独断で、彼はこの勝負の危険を救うべく
鉄扇を両刀の間に突き出したのでしょう、
それが遅かったか、かれが早かったか、
「突き!」
 文之丞から出た諸手突きは実に大胆にして猛烈を極めたものでした。
五百余人の剣士が一斉にヒヤヒヤとした時、
意外にも文之丞の身はクルクルと廻って、
投げられたように甲源一刀流の席に飛び込んで
逸見利恭の蔭に突伏してしまいました。
 机竜之助は木刀を提げたまま広場の真中に突立っています。
 間髪を容れざる打合いで場内は一体にどよみ渡って、
どっちがどう勝ったのか負けたのか、
たしかに見ていたはずなのが自分らにもわからないで度を失うているのを、
中村一心斎は真中へ進み出で、
「この立合、勝負なし、分け!」
と宣告しました。
 分けにしては宇津木文之丞が自席へ走り込んだのがわからない、
一同の面にやや不服の色が顕われました。
 机竜之助の白く光る眼は屹と一心斎の面に注ぎまして、
「御審判、ただいまの勝負は分けと申さるるか」
 片手にはかの木刀を提げたなりで鋭い詰問。
一心斎は騒がず、
「いかにも分け、勝負なし」
 竜之助はジリジリと一心斎の方に詰めよせて、
「さらば当の相手をこれへ出し候え」
「相手を出すに及び申さぬ、この一心斎が見分に不服があらば申してみられい」
「申さいでか。突いて来た刀を前に進んで外し面を打った刀、何と御覧ぜられし、
老眼のお見損いか」
 試合は変じて審判と剣士との立合となったので、並みいる連中は安からぬ思い。
 しかしこの勝負はいかにも竜之助の言い分通り、或いは一心斎の見損いではあるまいか、
老人なんと返事をするやらと気遣えば、一心斎は平気なものでカラカラと笑い、
「分けたあとの出来事はこちの知ったことでない、老眼の見損いとは身知らずのたわごと」
 分ける、突く、打つ、その三つの間に一筋の隙もないようであるが、
分けて考えれば三つになる。
 竜之助も口を結んで老人の面を見ていたが、
「しからば再勝負を所望する」
「奉納の試合に意趣は禁物」

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by totsutaki2 | 2013-01-17 22:50 | 読書

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