自省録

2012/12/27 「夜と霧」再読6 もはや神よりほかに恐れるものはない

【走った距離】  6km
【今月の累積距離】  283.66km
【天気】 晴れ 
【気温】 最高 6℃、最低 -1℃
【体重】  65.3kg
【コース】
淀駅~会社
【コメント】
今週は寒い日が続くが、
氷点下、底の開いた靴を履き、ぼろ布のような服を着て、
夜明け前から、屋外で点呼に立たされ、隊列を組んで行進させられ、
重労働をさせられた人々を思う。
伝染病の流行る中、一握りのパンと上澄みのようなスープに命を託した人々を思う。
暴力、罵詈罵声を浴びながら、何年も希望のない日々を耐えた人々を思う。
さらにたとえ一握りとはいえ、そのような状況でも
収容所にあっても完全な内なる自由を表明し、
勇敢で、プライドを保ち、無私の精神をもちつづけ、
苦悩があってこそ可能な価値の実現へと飛躍できた人々を思う。
そして今の自分が如何に恵まれているかを理解する。

今の私など、もし収容所に入れられたなら、なんら抵抗することなく真っ先に
幼児化し、被収容者の心理を地で行く群れの一匹となりはてるであろう。
アウシュヴィッツ収容所には耐えられそうにないが、
せめてドストエフスキーいうところの「苦悩に値」する人間でありたいと思う。
たとえ何があっても。

 収容所を解放された被収容者の心理。
精神的な緊張のあとを襲ったのは、完全な精神の弛緩だった。
体は精神ほどにはがんじがらめになっていなかった。
待ってましたとばかりに、体はのっけからこの現実を利用した。
文字通り、現実につかみかかった。
つまり、わたしたちはがつがつとむさぼり食ったのだ。
わたしたちは何時間も、何日も食べた。それが深夜に及ぶこともざらだった。
人はどれだけ食べることができるのか、信じがたいほどだった。
解放された被収容者のだれかれが収容所近くの親切な農家に招かれると、
彼はまず食べ、コーヒーを飲んでから、ようやく舌が滑らかになり、
そして語りはじめるのだった。何時間もかかる、彼の物語を。
何年ものあいだ、重くのしかかっていた抑圧から解放されたのだ。
彼が語るようすは、まるで心理的強迫であるかのようだった。
それほどに、彼は語らずにはいられないのであり、話さずにはいられないのだ
(たとえ短いあいだでもきびしい重圧のもとにあった人、
たとえば秘密国家警察の尋間にあった人にも
同じようなことが観察されることが知られている)。

 数日が経過し、さらに何日も過ぎて、舌がほぐれるだけでなく、内面でなにかが起こる。
突然、それまで感情を堰き止めていた奇妙な柵を突き破って、感情がほとばしるのだ。
 解放後、何日かたったある日、あなたは広い耕作地を越え、
花の咲き乱れる野原をつっきって、収容所から数キロ離れた小さな町まで歩いていく。
あなたは雲雀があがり、空高く飛びながら歌う讃歌が、
歓喜の歌が空いちめんに響きわたるのを聞く。
見渡すかぎり、人っ子ひとりいない。
あなたを取り巻くのは、広大な天と地と雲雀の歓喜の鳴き声だけ、自由な空間だけだ。
あなたはこの自由な空間に歩を運ぶことをふとやめ、立ち止まる。あたりをぐるりと見回し、
頭上を見上げ、そしてがっくりと膝をつくのだ。
この瞬間、あなたはわれを忘れ、世界を忘れる。
たったひとつの言葉が頭のなかに響く。
何度も何度も、繰り返し響く。
 「この狭きよりわれ主を呼べり、主は自由なるひろがりのなか、われに答へたまへり」
 どれほど長いことその場にひざまずいていたのか、何度この言葉を繰り返したか、
もう憶えてはいない……だがこの日この時、あなたの新しい人生は始まったのだ、
ということだけは確かだ。
そして一歩また一歩と、ほかでもないこの新しい人生に、あなたは踏みこんでいく。
あなたはふたたび人間になったのだ。

 そしていつか、解放された人びとが強制収容所のすべての体験を振り返り、
奇妙な感覚に襲われる日がやってくる。
収容所の日々が要請したあれらすべてのことに、どうして耐え忍ぶことができたのか、
われながらさっぱりわからないのだ。そして、
人生には、すべてがすばらしい夢のように思われる一日
(もちろん自由な一日だ)があるように、
収容所で体験したすべてがただの悪夢以上のなにかだと思える日も、
いつかは訪れるのだろう。
ふるさとにもどった人びとのすべての経験は、あれほど苦悩したあとでは、
もはやこの世には神よりほかに恐れるものはないという、
高い代償であがなった感慨によって完成するのだ。

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「夜と霧」再読 おわり。

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by totsutaki2 | 2012-12-27 21:44 | 心の使い方

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