自省録

2012/12/26 「夜と霧」再読5 まともな人間とまともではない人間と

【走った距離】  6km
【今月の累積距離】  277.66km
【天気】 快晴 
【気温】 最高 6℃、最低 3℃
【体重】  65.1kg
【コース】
淀駅~会社
【コメント】
フランクルは後年、ナチスの残虐行為がドイツ人の責任だとする考え方に反対し、
ドイツ人を擁護した。
それはフランクルの研究者としての実証的思考の帰結として得られた考えだろうが、
その考えを裏付ける体験があった。

 収容所の監視者のなかにも役割から逸脱する者はいた。
ここでは、わたしが最後に送られ、
そこから解放された収容所の所長のことにだけふれておこう。
彼は親衛隊員だった。
当時は収容所の医師(やはり被収容者たった、実はフランクルのこと)しか知らず、
解放後に明らかになったことだが、
この所長はこっそりポケットマネーからかなりの額を出して、
被収容者のために近くの町の薬局から薬品を買って来させていた。

 これには後日譚がある。
解放後、ユダヤ人被収容者たちはこのドイツ人の親衛隊員をアメリカ軍からかばい、
そのアメリカ人の指揮官に、この男の髪の毛一本たりともふれない
という条件のもとでしか引き渡さない、と申し入れたのだ。
アメリカ軍指揮官は公式に宣誓し、
ユダヤ人被収容者はドイツ人の元収容所長を引き渡した。
アメリカ人指揮官はこのドイツ人親衛隊員をあらためて収容所長に任命し、
親衛隊員はわたしたちの食糧を調達し、近在の村の人びとから衣類を集めてくれた。
 いっぽう、この同じ収容所の被収容者の班長は、ユダヤ人であるが
収容所の親衛隊員からなるドイツ人監視者のだれよりもきびしかった。
このユダヤ人班長は、時と所を問わず、また手段も選ばずに、
手当たり次第に被収容者を殴った。
他方、たとえば先のドイツ人の所長は、わたしの知るかぎりではただの一度も
「彼の」被収容者に手を上げたことはなかった。

 このことから見て取れるのは、ドイツ人の収容所監視者だということ、
あるいは逆にユダヤ人の被収容者だということだけでは、
ひとりの人間についてなにも語ったことにはならないということだ。
人間らしい善意はだれにでもあり、
全体として断罪される可能性の高い集団にも、善意の人はいる。
境界線は民族、国家や組織などの集団を越えて引かれるのだ。
したがって、いっぽうは天使で、もういっぽうは悪魔だった、
などという単純化はつつしむべきだ。
事実はそうではなかった。
収容所の生活から想像されることに反して、
監視者として被収容者に人間らしくたいすることは、
つねにその人個人のなせるわざ、その人のモラルのなせるわざだった。
そのいっぽうで、
みずからか苦労をともにしている仲間に悪をなす被収容者の卑劣な行為は、
ことのほか非難されるべきだ。
品位を欠くこうした人間が被収容者を苦しめたことは、
他方、監視者が示したほんの小さな人間らしさを、
被収容者が深い感動をもって受けとめたことと同じように明らかだ。

 こうしたことから、わたしたちは学ぶのだ。
この世にはふたつの人間の種族がいる、いや、ふたつの種族しかいない、
まともな人間とまともではない人間と、ということを。
このふたつの「種族」はどこにでもいる。
どんな集団や組織にも入りこみ、紛れこんでいる。
まともな人間だけの集団も、まともではない人間だけの集団もない。
したがって、どんな集団も「純血」ではない。
ドイツ人の監視者のなかにも、まともな人間はいたのだから。

 強制収容所の生活が人間の心の奥深いところにぽっかりと深淵を開いたことは疑いない。
この深みにも人間らしさを見ることができたのは、驚くべきことだろうか。
この人間らしさとは、あるがままの、善と悪の合金とも言うべきそれだ。
あらゆる人間には、善と悪をわかつ亀裂が走っており、
それはこの心の奥底にまでたっし、
強制収容所があばいたこの深淵の底にもたっしていることが、はっきりと見て取れるのだ。

 わたしたちは、おそらくこれまでどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。
では、この人間とはなにものか。
人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
人間とは、ガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。

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by totsutaki2 | 2012-12-26 22:05 | 心の使い方

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